しつけ=厳しくが正解?
子供や犬をしつけようとするとき、
「甘やかしてはダメ、厳しくしないと」
とマッチョな考えになりがちです。
これは正しいのでしょうか?
※個人的には、「しつけ」という言葉が一方的で威圧的な意味を含んでいる印象があるため、「トレーニング」という言葉を使うことが多いのですが、犬と生活する上での様々なトレーニングは、一般的には「しつけ」という言葉を用いた方が伝わりやすいため、今回は「しつけ」を使います。
子犬は、ある日突然、母犬や兄弟犬から離れて、飼い主家族の元にやってきます。
人間の家の中でのルール、トイレの場所、留守番の方法、人との遊び方、何一つ正解が分かりません。
人間が自分に対して優しい生き物なのか、ひどいことをしてくる生き物なのかも分かりません。
そんな状態で、突然、罰を与えられるとしたら、どれほどの恐怖を感じることでしょう。
その後で人間のことを信頼することができるのでしょうか。
まず、仲良くなる
特に子犬は、まだ警戒心が少ないので、新しい家族のことをすぐに受け入れてくれる傾向にあります。
この時期に、しっかりと信頼関係を作ってください。
人間が子犬のことを優しく扱い、突然ひどい仕打ちをしたりする生き物ではないことを知ってもらってください。
信頼関係を作るためにはまず、とにかく楽しく遊んでください。
子犬は遊ぶのが大好きです。
おもちゃやフードを使いながら、5~10分の楽しい濃密な時間を1日に複数回過ごしてください。
難しいことを考える必要はありません。
引っ張りっこに毎回勝つ必要もありません。
犬があなたと楽しく遊んでいればそれでOKです。
でも、できれば手や服をむやみに咬ませないように気をつけてください。
もし、あなたが成犬を迎える場合は、子犬以上に時間をかけて、信頼関係を作りましょう。
おもちゃではうまく遊べない場合は、美味しい食べ物を手から少しずつ与えてください。
初めは心を閉ざしていた犬も、少しずつ開いてくれるようになります。
人が上に立たないといけない?
一昔前、人と犬の関係をオオカミの群れ理論に当てはめて、
犬が自分が群れのリーダーだと勘違いしてしまうとワガママになり、
攻撃的になったり困った行動をする、という解釈の方法が流行った時期がありました。
そして、
散歩の時に犬を前に歩かせてはいけない、
食事は人が先に食べないといけない、
人の目線より高い位置に犬を抱いてはいけない、
などなど・・・今考えるととてもおかしなルールがまことしやかに広まっていったのです。
犬の群れはオオカミの群れとは違います。
犬の群れはオオカミの群れよりも順位が状況に応じて入れ替わることが分かっています。
そして、人は犬とは違います(当たり前ですが・・・)。
犬が人のことをどう思っているかは・・・分かりません(汗)
したがって、犬の行動をすべて、この群れの理論で解釈するのは、とても強引で無理があり、
正直言ってなんの役にも立たないのです。
ルールを隠さずに分かりやすく教える
そして、子犬と仲良くなると同時に、一緒に暮らす上でのルールを包み隠さず教えてあげてください。
ルールを教えずに失敗したら叱る、というのは卑怯です。
トイレをどこですればいいのか、
留守番の時には何をしておけばいいのか、
人と挨拶するときはどうしたらいいのか、
などなど、色々なことを分かりやすく教えて、できたときにはきちんと褒めます。
褒めるときは声だけでなく、食べ物も使います。その方が効果的だからです。
食べ物を使うのが甘やかしたしつけ方法ですか?
そんなことはありません。
どんな動物も(人間も)しっかりとフィードバックしてもらわないと何が正しかったのか、分かりません。
人間であれば、言葉のフィードバックだけで通用するかもしれませんが、
動物の場合は「報酬」という形で好きな物をもらうことが重要です。
ルールの教え方にちょっとしたコツがいる場合もあります。
分からないときはぜひドッグトレーナーに聞いてみてください。
頼れるリーダーになる
お話してきたとおり、
「きちんとしつける=厳しくする」ではありません。
きちんとしつける、とは、まず、
犬と楽しいことをたくさんしながら犬と仲良くなり、
犬の欲求を汲み取りつつ、人との暮らし方を分かりやすく教えて、
犬が自然とマナー良く振る舞えるようにフォローしてくことなのです。
したがって、犬を支配しようとするのではなく、
「犬にとって頼れるリーダーとして引っ張っていくと同時にフォローしていく」
そういった心構えで向き合ってもらいたいと思います。
特に、犬が1歳前後になると、飼い主さん以外のことが気になって指示を無視したり、
犬同士での争いが起きやすかったりと、若い犬特有の行動が出始めます。
そのときは、犬の要求に流されずに毅然とした態度を示すことも必要になってきます。
なぜ犬と暮らすのか
私たちはなぜ、犬と暮らすのでしょうか?
かわいいから、楽しいから、癒されるから・・・そんなあたりでしょうか。
私たちは、犬と暮らすことで、人間と異なる種類の動物との関わりを深めていくことができます。
これは他のことでは置き換えられないとても貴重な体験です。
犬は人間にとても近い動物で、彼らの巧みなマジックで、私たちはすぐに彼らを擬人化してしまいます。
でも、当たり前のことですが、犬は人ではありません。
人側の都合だけを押し付けるのではなく、
犬は私たちとは違う視線で世界を見ているのだということを感じてください。
それが犬と暮らす本当の楽しみなのではないでしょうか。
アニマルセラピーなどにも精通している行動学者のデニス・ターナー博士は
「コンパニオンアニマル(犬や猫)は我々人間と自然界との架橋になる存在なのではないか」
と言われていました。
犬から少し目をずらすと、そこには、
畜産動物、動物園動物、野生動物など様々な動物がいて、その周りには自然界があり、
人間だけで世界が成り立っているのではないことに気づくことができます。
犬との生活を通して、この世界は人間だけで成り立っているのではないことを思い出させ、
人間とは異なる多くの生き物への想像力を養ってくれるのではないかと思います。
辻村