先日、テーマ別クラスで、「家での困り事相談」というレッスンをしました。個別レッスンではなく、グループで日頃の愛犬の行動について相談し合う内容でした。飼い主さん同志、共感できる悩みも多く、大変盛り上がりました。
その中で、何組かの飼い主さんから相談されたのが、
「家具を噛んで困る」
という問題です。ソファーを噛んで中の綿を出して遊んでいた。サークルに入れていたのに、外のコードをわざわざ手繰り寄せて噛んでいた。など、なかなかすさまじい問題を突き付けられました。以前のレッスン時に対応策をお話していたつもりなのですが、実際はそのアドバイスだけでは解決できていないケースもあるんだ、と痛感しました。
ただ、この手の問題を解決するために考えていくことは、とても単純です。
- 犬という生き物と生活していることを理解する。
- 事故が起きないように管理を徹底する。
- 飼い主にとって困らない、「行動のはけ口」を用意する。
この3つを押さえて対処すれば、問題は解決の方向に向かうでしょう。
“1. 犬という生き物と生活していることを理解する。”
これは私自身、何度も何度も自分に言い聞かせます。私たちは、イヌ(Canis lupus familiaris)という、人間とまったく違う生き物と生活しています。彼らはコードを噛むと感電してしまうかもしれないことも、ソファーがボーナスで買ったばかりの高級品であることも、食卓の椅子が、もう手に入らないアンティークものだということも、まったく理解できません。それらはイヌにとって、何もすることのない退屈な時間の暇つぶしの「噛むオモチャ」でしかないのです。
「なんでウチの子はこんな物を噛むんですか?」という質問に対しては、「・・・イヌだからです」という答えしか思いつきません。
”2. 事故が起きないように管理を徹底する。”
特にまだまだエネルギーが有り余っていて、部屋での正しい過ごし方を知らない若い犬の場合、飼い主さんが見ていない状況で部屋にフリーにするのは危険です。クレートに入れるなど、事故が起きないような「管理」がとても大切になります。
“3.飼い主にとって困らない、『行動のはけ口』を用意する。”
家庭犬は、悪い言い方をすれば、ずっと「軟禁状態」にあります。毎日犬がヘトヘトになるほど運動させてあげられている家庭は少ないでしょう。そんな環境で、犬は何かを噛むことでストレスを発散したり、退屈しのぎをしたりしています。何も飼い主を困らせるために家具を噛んでいる訳ではありません。ですので、この「行動のはけ口」を、人間が困らない物を噛ませる形で提供できればいいのです。
まず、一番初めにお勧めするのが上の写真にも出ている、コングです。コングのような簡単に壊せないようなゴムでできた噛むオモチャにフードを詰めて与えます。これを勧めるのは「普段の食事」をオモチャに詰めて与えることができるからです。食事はお皿から与え、さらに別の噛む食べ物を与えるのでは、特に子犬には与えすぎてしまいます。子犬のうちはフードをふやかしてからコングに詰めるなどして、なかなか取り出せないようにして与えます。このように食事をすぐに食べられないような形で与える方法は、動物園動物の飼育でも使われています。動物の福祉と健康を考えて飼育環境を工夫する「環境エンリッチメント」の観点から取り入れられている方法です。家庭犬にも、すぐに食べ終わるような形で食べ物を与えることが、必ずしも幸せではない、という認識が広まるといいな、と思います。
また、先日Ziwipeakから販売された「デンタルチュー」もお勧めです。ゴム素材以上に固い物を好む犬もたくさんいます。そのような子たちが喜んで噛んでくれて、天然素材で歯や歯茎にも良い製品です。そう簡単に壊せる固さではありませんが、特に大型犬は、大きな塊のまま飲み込んでしまうことのないように、気を付けて見ておいてください。
また、もう1つ大切なポイントは、コングやデンタルチューなどの噛むオモチャを噛んでいる時に、ほったらかしにしないで、声をかけたり、時には奪ったりして遊んでやってください。噛むオモチャを与えているのに家具を噛むのだとしたら、違いは飼い主さんの反応です。犬は、噛むオモチャを噛んでいても相手にされなくて全然面白くないけど、「家具を噛むとお母さんが寄ってくるし、キィーキィー騒ぐし、すごく楽しいんだ♪」と思っているかもしれません。また、大切な噛むオモチャを取り上げられても、また返してもらう経験を繰り返すことで、物を守ることで起きてしまう攻撃行動を抑えることができます。
まずは、家具を噛めないようにきちんと管理すること。そして、噛むオモチャを噛むのが楽しいように仕向けることを、かわいい愛犬のために実践してあげてください。
辻村